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短編小説。
授業の課題で書いたものです。
(とあるもののリメイク版とも言う/笑)

『つづきを読む』からどうぞ↓

+++




『0から始まる物語』

それはいつもと変わらぬ朝だった。
携帯のアラーム音が部屋中に響いて頭がいたい。
もぞもぞと目を擦りながら携帯を探すと、いつもの場所にそれはなく、なぜか枕の横に転がっていた。
…こんな所に置いたっけ?
首を傾げながら携帯を持ち上げる。
ピカピカと青いランプが点滅し、いつの間にか送られてきていたメールを開く。
それは、私のものではなかった。
「…何これ?」
見覚えのない待ち受け画面。
知らないメールアドレス。
文面には『オレの携帯返せ』と書いてあった。
一体コレが誰のものなのか解らないまま携帯を眺めていると、突然聞き覚えのない音楽が流れ始める。
「もしもし?」
「もしもし?じゃねーよ!とっととオレの携帯返せ」
「…失礼ですが、どちらさまですか?」
「はぁ?覚えてねぇの?」
「まったく」
聞き覚えのない声に私は頭を捻る。
知り合い?いや、まさか。
「お前がオレの携帯持ったままそっち行っちまうから、マジ焦った。で?どう?そっちは」
「いやいやいや、だから記憶がね」
「あー…。まぁ、いいや。そのうち思い出すだろ。1つ貸しな。次会えるまでソレ持ってて」
「あの」
じゃ、という言葉と共にいきなり電話が切れた。
「…意味が解らないんですけど」
ツーツーツーという音が虚しく轟き、肩を落とす。
色々な疑問が私の頭を過ぎる中、私は目を擦る。
「…なんでセーラー服がかかってるの?」
うちの高校はブレザーなのに。
くるりと辺りを見回す。一気に血の気が引き、ぼやけていた思考と視界が覚醒する。
「何これ?!」
風になびくレースのカーテン。優しい花の香り。白を基調とした壁には高そうなアンティーク調の棚が並び、その上に置かれた写真の数々に私の知った顔はなく、さっきまで寝転がっていたベッドには物語の中でしか見たことのない天蓋が付いていた。
「・・・ここ、どこ?」
4畳ほどしかなかったはずの狭い私の部屋が、今は20畳くらいある。
「夢?ははは。なんだ。私まだ寝てるのか。そ、そうだよね。いくらなんでもこんな。こんな。うぅっわ!この家具高そう!って、おおお!シャンデリアー?!」
生活基準が違いすぎる家具たちに意味もなくあとずさる。
私の部屋じゃない。
絶対に私の部屋じゃない。
自慢じゃないけどうちは貧乏だ。特売品の肉や野菜を買い、お味噌汁に具が入っていたらガッツポーズをするくらいに。洋服だって半額セールで500円。値段の高さ自慢に興味はなく、年頃の女の子としてはどうかと思うけれど、どれだけ安値で買えたかってことが重要で周りの人たちみたいにブランド品には興味がない。
とりあえず落ち着こう。焦ったら負けだ。
そう思って部屋の隅で正座をしてみたら、コンコンっと扉が叩かれる。
「ど、どうぞ?」
「失礼致します。朝食ができましたのでお持ちいたしました」
「はひ?!」
朝食が部屋に運ばれるってどんな家だ?!
礼儀正しいきれいなお姉さんが銀色のカートに食事を乗せて私を凝視する。
「・・・お嬢様?そんな所で何を…?」
「少し、精神統一を?」
あははっと乾いた笑い声を発しながら内心の冷や汗がばれないように頭をかく。
お嬢様って言った?!この人いま、お嬢様って!
「あの、質問してもいいですか?」
「ええ。私で答えられることでしたら」
ふんわりと穏やかに目を細められ、思わず私は固まった。
日に当たるお姉さんが今迄で見た誰よりも綺麗で。
『麗しい』という言葉が頭を過ぎる。
「…お嬢様?」
「あ、と。すみません。不躾で申し訳ないんですけど、ここどこですか?」
「・・・お嬢様のお部屋ですが」
「お嬢様って誰ですか?」
ぴたっと硬直するお姉さん。
「あの?」
蒼白になった顔を押さえながら彼女は一気に部屋を飛び出した。
「お、奥様!旦那様!お嬢様がーーーっ!!」
「えぇ?!ちょっと、待って」
引きとめようと手を伸ばす。
ずべしっと自分の足が絡まって盛大に転んだ。

奥様、旦那様と呼ばれた人たちは私の知らない人だった。
とりあえず身支度を整えろと言われたので顔を洗うと、見覚えのない人が私を見ていて。
は?え?嘘?これ、私?
徐々に現実をおびてきた夢のような出来事に頭が混乱する。
お嬢様、と言うのは紛れもなくこの人で。
だけど私はこの人じゃなくて。でも、聞かされた名前は私の名前だった。たぶん俗に言う『同姓同名』というやつだろう。
よく解らないまま小奇麗な病院に連れて行かれ、「だから、それは確かに私の名前だけど私じゃないんです!」と言っていると『記憶喪失』と診断された。ヤブ医者め!

白いワンピースのポケットに入れた携帯電話。
彼なら、何か知っているかもしれない。
そう思って、着信履歴に残っていた電話番号を思い切って押す。2コールで彼は出た。
「何か用?」
「ここどこですか?」
「どこってどこのこと言ってんの?」
「あなた、誰?『そのうち思い出す』って言ってたけど、私、全然あなたのこと思い出せないんですけど」
「つか、今頃現状把握?普通もっと早く気がつくだろ」
クックッという笑い声が電話越しに聞こえて、腹が立つ。
「なっ!知ってるならさっさと教えやがれ!こっちは混乱して、わからなくてっ」
「あー泣くな泣くな。簡潔にいうとお前は死に損ない。んで、暇だったからオレがもう一度お前にチャンスをやったの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「オレ、神様。ホントに覚えてねぇの?」
頭可笑しいんじゃないの。と言いそうになったが、フラッシュバックのように脳裏に浮かぶ『私』のこと。
トラックに轢かれて、病院に運ばれて、死にたくなくて。
生きたい。と願った私に誰かが答えた。
『お前に1つチャンスをやろう。…今このときこの瞬間、生きることを放棄した奴がいる。お前と同じ名前を持ち、違う人生を歩んできた者。自ら生を捨てたソイツをお前は生かせるか?』
なんて贅沢な!どうせなら、私と変わってよ。私はまだ死ねない。死にたくない。やりたいことだって沢山あるし。明日は遊園地に行く予定だったのに。
「ソイツを生かせることができたら、お前の望み叶えてやっよ」
どう?っと楽しそうな笑顔をした少年が現れて、私は無意識に頷く。
生きたい。ただ、それだけを思って。
私は、『この子』となり、覚めるはずのない瞳を開けた。

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