『カメリアの宴』
3:プリムローズ
更新しないといいつつ、ここに更新(笑)
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その日は珍しく清々しい朝だった。
私の朝はいつも裕の笑顔から始まる。
それはここ一ヶ月変わらないものだったが、今日は違った。
ぼぉっとする頭を振って、まだ薄暗い空を見上げる。
眠った町。
いつもはこのまどろみの中で小鳥のさえずりを聴くのに。
そう思うと、なんだかおかしかった。
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「ねっみぃ・・・」
ふぁああっとあくびをしながら、隣の住人はリビングのソファに寄りかかり、頭に乗せていたタオルを肩にかけた。
「つかさ、なんでお前ココにいんの?」
隣の家に住んでいるくせにわざわざうちでお風呂に入って寛いでいる裕さん。
どういうつもり?と、私は眉を寄せる。
ソファに寝転がっていた私はクッションを抱えて裕の髪から滴る雫を追う。
「ちぃが寂しいだろうと思って」
今日、昭(あき)さんたちいないし。と弾む声で裕が振り向く。
「コラコラ。ちゃんと拭かないと風邪引くよ?」
べしっと裕の頭を叩くとキラキラ光る水滴が彼女の肩に落ちた。
「ちぃ、ふいて~」
「…自分でふけよ」
ったく、とため息をつきながら、私は視線を外す。
「ちぇ。ちょっとくらい構ってくれたっていいじゃん」
などとブツブツ文句を言う裕を尻目に、クッションに顔を埋めた。
今日は家に誰もいない。
父と母は未だに新婚気分でラブラブ夫婦旅行へ。
「おみやげ買ってくるから良い子でお留守番しててねぇ~」
うふふ~っと爽やかな笑みを残して去っていった両親を思うとついついため息が。
夫婦仲が良いのは…良いと思うけど。
良すぎるのもどうなの。
子供を放置ってどうなの?!
そこは仲良く家族旅行でも良いと思うんだけど…。
今更あの人たちに何を言っても仕方がないので、半ば諦め気味。
ラブラブオーラにやられて疲れ果てるのも嫌だし、これはこれと割り切った方が得策なのだが。
その度に母は裕に「ちぃちゃんのことよろしくね」と言いに行っているらしく、両親が夫婦旅行に出かけている間はいつも裕が泊まりに来る。
留守番くらい私1人でできるのに…。
母は、それをさせてくれない。
雨音が静かに耳に響く。
運悪く台風が近づいているらしい。
「―――ちぃ?寝ちゃった?」
ぽふっと頭に手を置かれ、静かに瞳を開ける。
「…寝てない」
瞳にうつる裕の顔。
柔らかく目が細められ、くすっと小さく笑った。
「寝るなら布団で、ね」
「・・・眠いけど。眠れない」
雨は嫌いだ。
じめじめして、雷がなって、頭痛がして、―――さみしくなる。
嫌な思い出。昔のこと。
考えなくてもいいことまで考えてしまって…暗雲が立ち込めるかのように。
「―――ちぃ」
ぽんぽんっと優しく頭を撫でられて、私は裕を見上げる。
「どうせ抱きしめるなら、オレにしない?」
にぃっと楽しそうに歯を見せて、裕は笑う。
声音はどこまでも優しく。甘く。
…甘やかされているなぁっと、内心苦笑する。
「ん~・・・まぁ。それでもいいけど」
ははっと乾いた笑みを浮かべて、ふぅっとため息を1つ。
「明日も早いし。さっさと寝よ」
クッションをソファに置いて、部屋へと。
裕が後ろから「はいはい」と笑いながらついて来るのが解り、コノヤロウと思いつつ、甘やかされてやってもいっか。とも思うのであった。
裕の声は子守唄のよう。
高くなく。低くなく。丁度よく耳に馴染む。
ことさら、私に対してはいつも優しく、どこまでも穏やかに、とことん甘い。
言ってしまえば砂糖菓子のように。
角砂糖を食べて甘さに酔って、うげぇっと吐きたくなる感じ。
昔からそうだったから、私はあまり意識したことがなかったけれど。
度々周りの女の子たちが顔を赤くして、
「え?ええ?!なにあのカッコいい人!」
「うわっ!すっごーい!いい声ぇ~」
「…ほ、ほれる」
とかって言っている。
・・・どうやら裕は、姿形は言うまでもなく、声すらも格別らしい。
「そうかぁ?」
訝しげに立ち去る裕の後姿に呟けば、
「この贅沢ものっ!!」
と、友人に責められたのは記憶に新しい。
「なんで、こんなんがいいのかねぇ?」
…女って解んねぇ。と隣に寝転がる裕を見る。
「何の話?」
「ん~・・・。女にもてる女の話」
「ははは。オレ?」
自信満々の綺麗な笑みで自分を示す。
それが妙にイラついて、むにっと裕の両頬を伸ばした。
「にゃ!いひゃいよ!ちぃ」
「うっせ!」
うらうら~っと頬を伸ばし続けると、裕が「うなーー!」っと意味不明な言葉を発す。
突然、窓の外が明るく光って。
ゴロゴロッと外から轟音が。
ビクッと肩が揺れる。
「ほぉら。そうゆうことやってっから天罰が来ちゃったんじゃないのぉ?」
にぃっと弧を描く口。
ムカつく言い方に顔を歪めて反論しようとするが、その前にまた、空が光った。
「っ!」
咄嗟にぎゅっと瞳を瞑ると、ぐいっと裕に抱きしめられる。
「怖いなら怖いって言えばいいのに。強情だなぁ」
くすくすっとからかい気味の声が降ってきて、なんだか悔しい。
「怖くないっ!ビックリしただけ!」
ギロッと裕を睨む。
裕は楽しそうに笑って、私の頭を撫でた。
「はいはい。解ってるって」
「解ってねぇ!その言い方はぜってー解ってねぇだろ!」
「んん~?とりあえず、まぁ。オレ、雷怖いからこうさせてよ」
ね?っと満面の笑みで顔を覗き込まれ、うっと息が詰まる。
「~~~~~っ!・・・ばか」
「ひっでー」
くすくすっと柔らかい声が雨音と共に耳に響く。
ヤダなぁ。悔しい。いつまでも子供な自分が。
嫌だ。甘やかされている。恥ずかしい。
そう思いながら、この手を取ってしまうのは、反則なのかな。
ぽすっと裕に抱きつくと、「お?」と小さく驚きの声。
その後に続く甘い声音。
裕は知っている。
私の苦手なものも得意なものも。
嫌って言うほど、知っていて、許容していて、受容している。
1人っ子の私が、あんまり1人で留守番するのが好きじゃないこと。
本当は雷とかお化けとか暗闇とかが好きじゃないこと。
私がそれを認めたくないこと。
認めたら負けだ!とかって思っていること。
全部全部解っていて、いつも傍にいてくれる。
―――くっそぅ!
なんで、こう、ムダに男前なわけ?
普段はあんなにヘタレで女々しいくせに。
たぶん母もそれを解っているから裕に私を頼むのだろう。
悔しいなぁ。
みんなに見透かされているのって。
なんだか、とても。
「・・・やだなぁ」
「なにがぁ?」
そうやって色気ふりまくなっつーの!・・・って、言いそうになって、止めた。
こいつにそんな意識は毛頭ないのだ。
無意識の産物ってオソロシイ。
「・・・・・眠れない」
裕の問いには何も答えず、プイっと顔を背ける。
「羊の数でも数えようか?」
そっと頬を撫でる暖かい手。
背けた顔は、いつの間にか裕の顔を見ている。
「…ガキかよ。私は」
「まだまだオレらはガキだよ」
こつんっと額が額にあたる。
「ちぃの弱みに付け込むオレは、更にガキだけどね」
悪びれずに舌を出す裕は、私よりずっとずっと大人な気がして。
「素直になれない私はもっとガキってか?」
と、ついつい笑みがこぼれる。
…不貞腐れても仕方ないのに。
ふっと自嘲しながら、「ありがとう」と小さくこぼす。
「いえいえ。こちらこそ」
ふんわりとした笑みが私を包み。
心がじんわりと温まる。
「じゃ、私が寝るまで羊数えてよ。数え間違えたら1からやり直し。先に寝たらラリアットね」
にぃっと微笑めば、うげっと裕が慌てて。
「オレ寝られないじゃん!」
と泣き真似を。
ごく自然にされる腕枕に慣れてしまった自分に気がつき、ペシッと腕を退かすとふっと余裕の笑みを浮かべられ。
「今更なに恥ずかしがってんの?」
と、腕の中に導かれる。
「あのねぇ。そうゆうのは違う人としろっていつも言ってるでしょ」
ベシッと額を叩く。
「いーじゃん。オレがそうしたいんだから」
そんな日常が、愛おしいなんて。
―――どうなのよ。それ。
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ちょっと中途半端ですが。こんな感じで進んでいきます(笑)
・・・あれ?
千里の心が揺れているような気がするのは私の気のせいですか?!(笑)
裕!もう少し頑張れば・・・?!
と、思ってしまう親心。
千里。気をしっかり!
と、思ってしまう親心(ぇ)
それ以前に、裕には爽という彼氏がいるでしょうが。と思ってしまう親心(何それw)
・・・いったいどうなってしまうのか。
私にも解りません(何?!)
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