やさしい夢が見たいな。
紅茶の中に入れる角砂糖みたいに、甘く、蕩けて。
コーヒーをまろやかにするミルクみたいに。
身体に沁みこむしあわせな夢。
こういうこと考えると、「だから夢見がちだって言われるんだよ」っていう雀夜を思い出すけど。
ちらちらと映る蜜の色が、あたしを誘う。
それは、仮初。
優艶に笑む彼は、『名も無きピエロ』。
だめなのです。
だめなのです。
沈む太陽みたいに。
彼に惹かれては消えてゆくだけ。
水しぶきが飛び散る噴水に、月明かりがゆらりと揺らぐ。
これは、罠だ。
銀色に光る蜘蛛の巣みたいに。
ひっそりと獲物を狙っている。
「おいで『Doll』」
蜜色が風に揺れて。
彼の口がゆっくりと弧を描く。
囚われてはいけないと幾度と言い聞かせられようと。
あたしは彼を拒む術を知らず。
「―――Sì」
その妖しげな笑みにすら、惹かれてしまう。
お願い、Gattina。
あたしを止めて。あの人を止めて。
あたしを見逃して。あの人を見逃して。
何かあれば、あたしを。
差し出せるものならば全てを捧げるから―――…。
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『カメリアの宴』過去編の人々その1。
「Sì(はい)」と「Gattina(子猫)」はイタリア語です。
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