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『カメリアの宴』 過去編 アスター の続き↓ を先に公開(笑)

いずれちゃんといたwebページにしますが、先行公開ってことで。


読みたい方はどうぞ♪

(激しく長いですが。根気のある方は挑戦してみてください/笑)
(これ↓で完結です)


+++

+++

「そう君。今の、だぁれ?」
とろん、とした瞳で呟かれ、僕は「女子部の方でした」と先程受け取った健康診断表を彼女に渡す。
「あら、王子(プリンス)じゃない。・・・悪いことしちゃったわね」
ふふっと穏やかに口を上げ、うっとりと彼女は目を細めた。
「…プリンス?可愛らしい女性でしたが?」
「『用心棒(セキュリティポリス)』の『小さい(リトル)王子(プリンス)』。・・・あなたも一度くらい耳にしたことがあるんじゃなくって?」
「―――あの人が、例の?」
「ええ。・・・本当、出ればよかったわ」
至極残念そうに嘆く彼女に触れて「僕じゃお気に召しませんか?」と瞳を揺らす。
「いいえ。でも。―――あなたは、誰のものにもならないから」
さみしそうに落とされた言葉に苦笑し、「今は、あなただけのものです」と、囁いた。

女子部の噂は、僕の立場上、耳にすることが多かった。
この学校では特殊な制度が多々存在し、そのうちの1つが『紳士淑女制度』である。
またの名を『パートナーシップ制』という。
女子部男子部に別れるこの学校は全寮制で、校訓は『汝、夢追い人也』という一風変わった言葉を掲げ。
『何かをやりとげる精神と根性を育てる』ことに積極的だ。

普段接点のない男子部と女子部の交流としても話題に上がる『パートナーシップ制』は、男女、男男、女女、生徒も先生も関係なしに『パートナー』を選ぶことができる。
まずは自分が『なに』になりたいかを決め、『それ』に見合う相手を見つける。
例えば、自分が『王子』になりたければ、それに相応しい『姫』や『執事』を見つけるように。
『主人』になりたければ、それに相応しい『メイド』や『護衛』を見つけるように。
自分で自分のなりたい『役』を決め、それを行う『相手』を探し、『誓い』を立てる。
この学校にいる間、卒業するまでの期間、それをまっとうし、相手と共にあることを。
これを行うことにより、『何かをやりとげる精神と根性を育てる』のだそうだ。

一定の秩序の元、その誓約を守る。
それを学ぶための『パートナーシップ制』。
不思議な制度の多いこの学校でも、特にオカシイとされる制度。
けれど、郷に入れば郷に従え、とはよく言ったもので。
次々に『誓約』を交わす『パートナー』たちに焦り、また1組、また1組と、それは成り立っていくのである。

・・・僕は、特になりたいものもなかったし、『パートナー』が欲しいとも思わなかった。
流されて、流れ行くまま、『なにか』になればいい。
そう思っていたら、いつの間にか『流浪(ベイグランド)執事(バトラー)』と呼ばれ『誓約』を持たない『執事』として、さまざまな『主』に仕えるようになった。
特にこだわりのなかった僕は、求められるまま『誰か』の『執事』になり。
『誰か』が僕を必要としなくなると、また流れた。

『誓約』を立てない僕は、この学校では少々異質で。
男子部だけでなく、女子部にまでもその噂は広まったという。

しかし、奇遇なことに『誓約』を持たなかったのは、僕だけではなかった。

それを耳にしたとき、ただ、「へぇ」と思った。
女子部に『姫』でもなく『巫女』でもなく『天使』でもなく、『用心棒(セキュリティポリス)』になったものがいる、と。
秩序の欠落はどこにでも存在する。
それを防ぐ者になれればいい、見たことのない『彼女』はそう言ったらしい。
―――ずいぶんとまともな人がいるものだ、と感心したのを覚えている。
妙なこの学校に、まだ正気を保った人がいるのか、と。

やがて、その噂も広まり、『用心棒(セキュリティポリス)』は女子部の間で『小さな(リトル)王子(プリンス)』と呼ばれるようになった。
こじれ、ねじれたパートナーたち(かんけい)を元に戻し、秩序を保とうとする彼女に賛同するものたちがそう呼び始めたのだという。

・・・王子と言うには幼い印象を受けたのだが。
配慮と常識に欠けた僕向けた堂々とした物言いと気遣いは、好感の持てるものだった。

口を引きつらせて去っていった彼女を思い出し、僕は静かに瞼を閉じる。

―――願わくば、また。

異を唱えることを忘れた僕には、彼女の存在がとても尊いもののように思えた。

+++

全寮制であるこの学校では、女子部には女子寮が、男子部には男子寮が敷地内に設置されている。かくいう私も女子寮に住んでおり、同室には『子猫(ダンデライオン)』がいた。

「ちーちゃん。顔色悪いけど、大丈夫?」
ベッドに倒れこんだ私を心配して、『子猫(ダンデライオン)』こと廿楽 幸は温かいココアを入れてくれた。
お礼を言い、それを受け取りながら「妙なモン見ちゃってさぁ~」とため息を1つ。
きょとん、と首を傾げる廿楽が愛らしくて、つい頭を撫でた。
「保健室に健康診断表持ってったら、男子部の人がいて。『誓約』を持ってないくせに先生に仕えてるみたいなんだよ。おかしくねぇ?」
ぱちぱちっと瞬きをして、廿楽が「ん~?」と何か思案する。

ルームメイトの彼女は、この学校にいながら結構まともな部類に属していた。
今だ『パートナー』を作らず、『用心棒(セキュリティポリス)』になりたいと言った私を、一番に受け入れてくれたのは彼女だ。
「なら、私は『影武者』になるよ」
そう言って、ことあるごとに私の失態をフォローし、ツメの甘い私の補佐をしてくれる。
『子猫(ダンデライオン)』と言う通り名はクラスメートたちがつけたもので。
彼女自身はなぜそんな名をつけられたのか、首を傾げていた。

私の動きを知る人の間では、彼女のことを知る人も多く、『影武者』として密かに、そして確実に実績を残している。

「『流浪(ベイグランド)執事(バトラー)』?」
「なにそれ?」
ぽつりと呟かれた聞きなれない言葉。
「このあいだ、野々宮くんに聞いたの。男子部のうわさ。『誓約』を持たない『執事』さん。『流浪(ベイグランド)執事(バトラー)』のこと。望めば誰にでも仕える、て言う、執事さん、なんだって」
よく覚えてないけど。と廿楽が項垂れ、こてん、と私のベッドに頭をよせた。
「つづにしては覚えてた方じゃん?」
とりゃっと首に手を回すと「ま、ね」とココアを口にした。

+++

「どうせなら、中学時代の話、まとめてしちゃおうか?」
教えろ、とすごむオレに、爽は苦笑しながらそう言った。
「・・・きっと、鈴原からも話を聞いたほうがいいと思うんだ」
懐かしんでいる、というには陰鬱な空気をかもし出している彼に、オレはますます解らなくなる。
「…うん?」

それを聞いた千里は、血相を変えて頑なに話すことを拒んだが。
逆に気になって仕方がなかった。
…彼らの学校で、一体なにが?
大げさにため息をつく千里を見ながら、オレは頭を捻った。

「…『パートナーシップ制』?『流浪執事』?『用心棒』?『小さい王子』?
あと、えーと『子猫』?
―――何の話?え?それ学校?!ありえねぇだろ?!!
っつか、爽!お前、保健室でなにしてやがった!!」

二人が話す内容はどうかんがえても信じられないものばかりで、話を消化するのに時間がかかった。
どこかの絵空事じゃねぇんだから。
そんな学校あるわけねぇだろ!

勢いよくまくし立てると、「だから信じなくていいって」と千里が呆れて肩を落とす。
千里の横で淡々と話していた爽は、オレに首を振る。
「…裕が考えてるようなことは何も」
「嘘つけ!」
「おちついて、裕。本当に高西、何もしてないから」
はぁぁ。と盛大にため息をつかれ、オレは「はぁ?!」と不満を訴える。
「なんか誤解があるようだから言っておくけど。仮にも中学校だよ?いかがわしいことなんて、あるはずないじゃん。バーカ」
「千里だって入るの躊躇ったんだろ?!」
「保健室の先生。整骨もやってるから、邪魔しちゃ悪いと思ったんだよ」
頭を押さえ、これ以上疑ってやるな、と牽制される。
「一応、先生と生徒だけど。男と女には変わりないから。あの忠告は、そういう誤解されないように配慮しろっつーこと。お解り?」
ぽんぽんと千里に肩を叩かれ、オレは爽を見た。
「僕って、そんなに信用ないんだね・・・」
ひゅるりと風が吹き、爽は今にも泣きそうな顔をして俯く。
「確かに僕は『誓い』をたてなかったけど。そんな節操のないことはしない」
震える声に罪悪感を掻き立てられ。
「だーーーっ!解った!解ったから!続きは?!」
がしがしと乱暴に頭をかき、オレは千里に向き直る。

「・・・まだ聞くの?」

心底嫌そうに落とされた言葉に、心の中で「一番重要なとこ聞いてねぇんだよ!」と先程の爽の台詞を思い出す。

『―――知っているよ。彼女の無防備さは。
…昔から、ああなの?』

千里のなにを見た?!
保健室うんぬんは過去のこと。
真実はよく解らないが、一応、爽のことを信じるとして。

―――こればっかりは、見逃せねぇ。

意気込むオレに、
「だから、言いたくなかったのに」
と顔を歪めた千里が小さく呟いた。

+++

僕が再び彼女を見かけたのは、それからずいぶん経った頃だった。
高飛びの準備をするため、マットを取りに体育倉庫へ。
色々な道具がひしめく中、お目当てのマットの上には、いるはずのない彼女が存在していた。

「-――レディ?こんな所で寝ていると風邪を引きますよ?」
マットに沈む身体をゆすると、彼女は「…ぅ・・・ん」と身じろぐ。
「…レディ?」
呼びかけても一向に起きる気配のない彼女に困り果て、僕は小さくため息をついた。
「これでは、レディと言うより・・・」
先日聞いた彼女の通り名を思い出し、僕は薄く笑う。
「申し訳ありません。レディ?ここは少々問題がありますので…。
―――しばし、あなたに触れることをお許しください」
こてんっと寝返りを打つ彼女の背に手を入れ、僕は彼女を持ち上げた。
肩にかけていた上着を彼女にかけると、腕の中から気持ち良さそうに寝息が響く。
「…レディ?」
小さく彼女を呼ぶ。声に答えるかように僕に擦り寄った。
・・・ここが一応共学だって言うこと、完全に忘れていますね。
「しゅ・・・ぅ・・・」
拙い口調で誰かの名前を呟く彼女に苦笑をこぼし、僕は足早に校舎へ向かった。

前『主』にもらった鍵で保健室の扉を開け、お日さまのにおいがするベッドに彼女をおろす。
「もう、あんな所で眠ってはいけませんよ?」
顔にかかる彼女の髪を静かにどけ、その場を離れようとした。が。
「―――レディ?」
くいっと何かに引かれる感覚。振り返ると彼女の手が僕のシャツを掴んでいた。

+++

ざわめく自然音。
木々がゆれ、風がなびいて、鳥がうたう。
生徒たちの元気な声と、囁くような子守唄。
暖かい日差しが私を照らし、世界が優しく微笑んでいる。

「―――レディ?」
気遣うような声音が耳に届いて、「だれ?」と首を傾げる。
穏やかかつ、静かで耳通りのいい上品な笑い声が響く。
「やはりあなたは、レディと呼ぶには少々早い」
すごく失礼なことを言う奴だな。と非難が浮かぶ。
たうたうような光の中で、私はそれを夢だと思った。
「…レディ?そろそろ起きていただかないと、見つかってしまいますよ?」
さらさらと何かに髪をいじられている気がして、くすぐったい。
逃げるように背けた顔に、暖かい明かりがさす。
「・・・お目覚めですか?」
誰かが優しく私に触れた。
「―――だれ?」
ぼやける視界をこすりながら、ゆっくりと瞼を上げ、瞳をこらす。
「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。
僕は高西 爽と申します。『流浪(ベイグランド)執事(バトラー)』と言った方が解りやすいでしょうか?」
恭しく持ち上げられた手の甲に、ゆっくりと彼の顔が近づいて。
「レディ?あなたのお名前は?」
ふんわりと細められた瞳が私をうつす。
透明で穢れのない真っ直ぐなそれを、逸らすことができずに。
「すずはら ちさと」
自分でも訳が解らぬまま、うわ言のように、言葉を紡いだ。

+++

「…って、あれ?2回目に会ったのって保健室じゃなかったっけ?」
不思議そうに爽を見る千里。
「正確には体育倉庫だよ」
思い出を懐かしむ彼の横顔を見て、オレはそういうことかと安堵する。
「千里は一回寝ると中々起きないんだから。その辺で寝んなっていつも言ってるだろ」
はぁっとため息をつくと、彼女は不服そうに口を尖らせた。
「…そんなこと言われても。眠気には勝てませんって」
反省の色が感じられない彼女の態度に頭を抑え、叱る。
「ちぃは女の子なの!女の子!いい加減自覚しろっ!!」
「自覚してるって!なぁ高西?」
千里は横にいた爽を見上げ同意を求める。
「…アレはけっこう危険だったよ」
爽は珍しく眉間にしわを寄せ、千里の頭をこつんと小突く。
「あのままあそこにいたら、興味本位でみんな集まってきて、起きたときには囲まれてたよ?」
裕もそう思うでしょう?と問われ、オレは力強く頷いた。
「ったりめぇだ!そんな危険地帯で眠りこくたぁ女の風上にもおけねぇ!」
「・・・そこまで言わなくても」
少々気を悪くした顔で千里はオレらを見た。

これ以上怒らせるわけにはいけないので口を噤んだが、不服なのはこっちだ!
だいたいオレ以外の奴に寝顔を見せた上に、千里をお姫様抱っこだと?!
なんつーうらやましいことをっ!
じとりと、爽を睨むとその考えが伝わったのか
「まぁまぁ。昔のことだから」
と彼は俺をなだめた。

+++

その後、授業が始まるため教室に戻ったが。
僕らは裕に聞こえないように内緒話をした。
「・・・そういえば、『彼』とは上手くいってる?」
「あ~…。上手く、いってるようないってないような・・・」
目を泳がせながら「相変わらず」と鈴原は、困ったような寂しそうな、複雑な表情を浮かべた。
「―――長いね」
上手くいったらいったで裕は嘆くだろうけど。
「・・・うん。でも―――…」
少し俯き、影を落とした鈴原は、それでも、と僕を見上げてはにかむように笑った。

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