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短編小説です。

とある病室での出来事。


お話が読みたい方は、下の 『つづきを読む』を押してください。







+++




眠りにつくことを恐れないで。

そう貴方は言った。
柔らかな笑顔を私に向けて、夜を眺める私の髪を優しく撫でながら。

だけど、そんな言葉は聞きたくない。
恐れないでいられたら、私はとっくに眠れているの。
子供騙しな言葉で取り繕うのはやめて。
私は優しい嘘や夢みたいな奇麗事なんて要らないの。
欲しくない。


ここにいるから。ずっと、側にいるから。


優しさで嘘を重ねないで。
できない約束なんて虚しいだけ。できもしないと解っているのに、約束なんてしないでよ。


…泣きたくなるから。


夜が怖い。夜明けが怖い。眠るのが怖い。明日が怖い。
今日は生きられた。
けど、明日は?

どうして朝日は昇ってしまうの。
今日は今日のままで留まってくれればいいのに。
明日になんかならないで。

私はいつまで生きられる?

眠ってしまったら、目覚めないかもしれないじゃない。
そしたら皆消えちゃうわ。
皆にとっては私がいなくなるんだろうけど。
私にとっては皆が消えるの。
だって私だけ今日に取り残されたまま。
皆は明日へ行っちゃうんでしょう?

私がそう呟くと
決まって貴方はこう言うよね。


僕が起こしてあげるから。ゆっくりおやすみ。
僕がちゃんと明日へ連れて行くよ。
と。


それを聞いていつも私は思うんだ。

眠りにつくのが私でよかった。と。

数ヵ月後の病室を想像しながら。
息絶える私に泣きながら微笑む貴方。
きっと貴方は私の手をとって、大丈夫だと、まだ死なない、頑張れ、と言うのでしょう。

誰かが私を可哀想だといったけれど、私はそんなに可哀想かしら?
最後の最期まで貴方が看取ってくれるというのに。


奇麗事は嫌い。
嘘や励ましで病気が治るのなら聞いてあげてもいいけれど。



―――なぜかしら。
貴方に言われるのは嫌じゃない。



そして私は瞳を閉じる。

貴方の優しさに包まれて眠りにつくことができるのなら、

眠るのも悪くないわ。
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