とある日の廿楽とやっさん。
※やっさん:生徒会副会長。谷内のこと。
やっさんの説明は『廿楽さんと神楽くん』のページの登場人物をご覧下さい。
小話を読む方は下の『つづきを読む』からどうぞ。
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「ね、やっさん。やっぱり、神様も誰か一人を愛したりするのかな」
「どーした?急に」
ぽつんと残された二人きりの教室で、私は窓側の席に座りその隣にやっさんが座り、二人で日向ぼっこをしていた。
「うん。ただね、ただ、私は神様に愛されなかったんだろうな、って思って」
雅人先輩やとーこさん、やっさんたちとは違って。
そう思ったけれど、口にはしなかった。
「つーがそー思うなら、そーなのかもね」
ぽかぽかする光を浴びながら、やっさんはいつもと同じようにへらりとした緊張のかけらもない笑顔を返した。
「そか」
そうなのかもしれない。
愛されていないと思うから愛されていないのかな。
じゃあ、他の皆は愛されていると思っているから愛されているのかな。
「じゃあ、やっさんは?愛されてると思う?」
私たちは机の上に顔をのせ、お互いの顔を見合わせていた。
「いんや。全然思わないよ」
やっさんは相変わらずにこやかだった。
「?、なんで?」
やっさんはこんなにも良い人で、頭も良くて、人望も厚く、優しい人なのに。
どうして。
「だって、会ったことないし」
「・・・ぅん?」
あまりにも予想外な答えが返ってきたので、変な声音を出してしまった。
「会ったことない奴に、愛がどうとか言ってもねぇ」
ふにゃと力を抜いてやっさんは笑った。
あまりにもやっさんらしい回答だったので、思わず私も笑ってしまった。
「やっさんは、神様、いると思う?」
「おれは、いると思うよ」
「なんか、意外」
「そー?」
「ん」
「でも、きっといつかつーも出会うと思うよ」
「神様に?」
「そう。おれにはおれの、つーにはつーの神様に」
「それは、素敵な考えだね」
「だろ?」
例え神様がいなくても、例えその『誰か』に出会わなくても。
その、やっさんの考えが素敵だと思った。
例えこれが、やっさんが私を元気付けるためだけについた嘘だったとしても。
それは、この人なりの優しさだろうから。
窓から差し込む太陽の光が背中を暖める。
いつになったらこの人の仮面を剥がすことが出来るだろうか、と思いながら、横にいるやっさんに笑顔を向けた。
――ね、やっさん。やっさんの考えはとても素敵だけど。
私、神様なんて要らないよ。
その気持ちを隠すかのように。
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