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『聖☆おにいさん』が読みたいです。
 
文芸部員の皆さま。
部長から新入生歓迎会のお手伝いの要請が来ました。
詳しくは解りませんが、そのうちお手伝いの通告が行くかもしれません(笑)
楽しみにしててくださいね(はぁと)
 
+++

文芸部といえば今回のテーマである『あんみつとわたし』。
みなさま…出しました?(びくびく)

先生とソロン様が提出済みなのは確認したのですが、他の方はどうなのでしょう。
あ、私は書きあがったので向こうより先にココに載せようと思います(待て)

以下、『あんみつとわたし』(小説)

+++
 


あんちゃんとみっちゃんは本当によく似ている。
目も鼻も口も髪型も。付き合っていくうちにどことなく違いが見えてくるものなのだが、付き合いの浅いわたしにとってはとても難問である。
 
「きょうは、みっちゃんと、おやくそく」
 
小さい紅葉のような手のひらを一、二回握り締め、わたしはふぅっと一息ついた。
手のひらに食い込んだ袋が痛い。できればここで投げ出してしまいたいけれどそんなことをしたら折角のお菓子がダメになってしまう。みっちゃんはとても真面目に意地悪な人だから、わたしがお菓子を投げ出したと知ればきっと爽やかな微笑でわたしを詰るのだろう。
…それは嫌だな。
この歩道橋を渡ればすぐに待ち合わせ場所に辿り着くけれどこの小さい手足ではいつもの倍以上の時間がかかってしまう。
もう、慣れなくてはいけないというのに。
自嘲と共に空を仰いで、わたしは以前の『私』に想いを馳せる。
 
『私』はとても平凡な女の子だった。少しばかり厳格な父親と母親に育てられ、他の人から見ればほんの少しだけ礼儀正しく規則正しく、稀に見る『模範的な優等生』と先生方から絶大な支持を得ていた。幸いなことに友達にも恵まれ、なに不自由のない生活を送っていたのだけれど、少しだけ窮屈で退屈で。
ある日は空を自由に羽ばたく鳥に憧れ、ある日は目が合った気まぐれな野良猫に憧れた。
それが当たり前の日常で、これからもそうして生きていくのだと疑うことのなかった『私』。
それが今はどうだろう。
今まで培ってきた全てが嘘のように『私』は『わたし』になってしまった。
 
高校卒業間際の3月。
気の早い桜が咲き始めた頃、たまたま私は眩暈に襲われ、その場に倒れて気を失った。また貧血を起こしてしまったのかとあまり身体が強くない私はいつものようにそれを受け入れ、薄れていく意識を何の抵抗もなしに手放した。
今思えばそれがいけなかったのかもしれない。
私が再び目覚めたときそこにいつもの日常が在るとは限らないのに。
 
「あら?起こしちゃったかしら」
降り注ぐやさしい声。
頭を撫でるあたたかな手に目を細めながら私は無意識に首を振る。
「まだ、ねてる…」
小さく小さく呟いた言葉に「はいはい」と誰かの声がやさしく揺れた。
後に、その人が『わたし』の母親で『わたし』が小学校入学前の幼稚園児だということが判明したのだが。
わたしはこれが本当に現実なのか、未だに計りかねないでいる。
 
+++
 
「よ。チビ助。ご苦労ご苦労」
色素の薄い茶色の髪に茶色い瞳。男とも女とも取れるような中世的な顔立ちに、お洒落な洋服。同じクラスにいたらつい目が追ってしまいそうな風貌をしているこの人は、歩道橋を降りてきたわたしを見つけると、片手を挙げて挨拶をし、乱暴にわたしの頭をぐちゃぐちゃにした。
「やめてください」
ぺしっと手を振り払って、そっぽを向く。
「最近のチビ助はかわいくねぇなぁ~…反抗期か?」
チビの相手は難しいねぇなんて言いながら、みっちゃんはひょいっとわたしの手から荷物を奪い取る。
「…ありがとうございます」
「ん」
ぽんぽんっと痛くない程度に頭を叩かれてみっちゃんは柔らかに目を細める。
笑った顔に少しだけあんちゃんの陰がちらついて、思わずわたしは尋ねてしまった。
「…きょうの、みっちゃんは、みっちゃんですか?」
「おうよ。みっちゃんはいつでも佳麗で爽やかなみっちゃんですよ」
うん。大丈夫。この思わず顔を歪めたくなるような言い回しはみっちゃんだ。
あんちゃんであるはずがない。
「あんちゃんは、どうしていますか?」
「んん?あんに会いてぇの?」
「いえ、どうしているのかとおもいまして」
「…チビ助。頼むからもっと子供らしい話し方をしてくれ。なんだか年上の奴と話してる気分になってくる」
「…むずかしいこと、いわないでください」
「難しくねぇだろ。この間までクソ生意気なガキだったくせに…最近のガキはわかんねぇなぁ~」
渋い顔をしながら頭を掻くみっちゃんを尻目に、そう言われても『私』はその場に応じて適当な処置ができる人ではないしと苦笑する。
『わたし』は幼稚園児ですよ、と言われたからと言って今更どう幼稚園児になれというのだろう。『私』は高校3年生だったのに。…いや、今でも『私』は高校3年生のはずなのだけれど。
とりあえず敬語は使うべきではないか。
「このあいだまでのわたしって、そんなになまいき、だった?」
「生意気生意気。すっげー生意気でちっこくって我侭でうるさくって強暴で、女にしとくの勿体ねぇくらい男気あふれるやつだったよ」
「…そんなバカな!」
「お。その調子その調子。チビ助は生意気なくらいのほうが丁度いい」
「なんですかそれは…」
「そのまんまの意味だよ。なんだってそう俺に気ぃ遣うかねぇ…ったく」
みっちゃんは呆れたようにわたしを見て、荷物を腕に引っ掛け、わたしを抱き上げる。
「せっかくの休みなんだから、律儀に会いに来なくてもいいのに」
「……そしたらみっちゃん、ひとりになっちゃうじゃない」
「あんがいるから平気だって。1人がサミシイ歳でもねぇしな」
「みっちゃん、まだわかいのに…」
同情と憐れみの瞳でうるうると見つめると、みっちゃんは顔をしかめて。
「チビ助にだけは言われたくねぇよ」
と、わたしの頬を引っ張った。
「ぃひゃい。ひゃめて。ひじわるすると、おかひあげないからね!」
「んん?『痛い、止めて。意地悪するとお菓子あげないからね?』…ほほ~これは菓子か。毎週毎週、昭さんも気ぃ遣わなくていいっつってんのに…」
あーあーとか言いながら、みっちゃんはわたしの両頬をむにっとつまんでタコのような顔にさせた。
「チビ助も昭さんも…チビ助が来んの承諾しちゃう孝司さんも…どーしようもねぇよなぁ…ほんと…」
頬から手を離して、みっちゃんはわたしを優しく撫でた。
「それこそ、みっちゃんにいわれたくない」
「んん?」
「みっちゃんがうちにくれば、みんなまるくおさまるのに」
「そうゆう訳にはいかねぇだろ。さすがにさ…昭さんたちまだまだラブラブだし。んな野暮なことできねぇし。あんもいるしな…」
そんな心配、子供はしなくてもいいんだよ。…と、今の姿で言ったらみっちゃんは怒るだろうか。
 
みっちゃんは14歳にしては大人びていて、人生を達観したような節がある。まだ中学2年生だというのに。環境がそうさせたのか、人がそうさせたのか。18歳だった私よりもはるかに大人で…少しだけ歳相応な子供の顔を見せる。
思うに、その垣間見える14歳のみっちゃんが本当のみっちゃんなのじゃないのかな。
苦労と言う苦労をしてこなかった『私』にはそれが不憫に思えて仕方がない。たぶん、そんなことを言ったらみっちゃんは怒鳴るのだろう。同情も憐れみもいらないと。
でも。
 
+++
 
みっちゃんと出会ったのは今から2ヶ月前。
ちょうど『私』が『わたし』になって1ヶ月たった頃。
『わたし』は以前からみっちゃんとは仲が良く、ことあるたびに遊んでもらっていたと言うのだが、残念ながらその記憶は『私』にはない。だから、『私』がみっちゃんのことを知ったのは『わたし』のお母さんである昭さんとお父さんである孝司さんが「家においで」とみっちゃんを口説きに行ったときだった。
 
聞いた話では、1ヶ月前、病弱だったみっちゃんの母親が亡くなり、今はこの家で1人で暮らしているという。みっちゃんの父親はアメリカに単身赴任をしておりお正月くらいしか帰ってこない。叔母である『わたし』の母が心配してみっちゃんを何度も「一緒に暮らそう」と誘うのだが、みっちゃんは「大丈夫です。お気持ちだけ受け取っておきます。ありがとうございます」といっこうに首を縦には振らないのだ。
―――なぜ?と首を傾げたくなったのはきっと私だけじゃないはず。頑なにここに残ろうとする意味は、そのときの私には解らなかったけれど。
なぜか、この人を1人にしてはいけない、と思ったのだ。
だから。
「じゃあ、わたしが、みっちゃんにあいにくる」
咄嗟に口にした言葉は、周囲の人たちを驚かせ
「わたし、はけんしゃいんになるよ!」
ビシッと勢いよく手をあげて断言をすると、ついに大人たちは固まって、みっちゃんは何ともいえない顔をして『わたし』を見ていた。
 
毎日行くのは無理があるでしょう。2人とも学校や幼稚園があるんだし。もっと落ち着いて考えて。え?土日?…確かに学校はお休みかもしれないけど。せっかくお父さんがお家にいるのに…いいの?お父さんと遊べなくなっちゃうよ?
「パパにはママがいるから大丈夫!パパがさみしくならないように、わたしちゃんとおてがみかくから…さみしくないよね?」
子供のわがままを諌める母親と父親を懐柔する言葉としては上手くなかったかもしれないけれど、『私』にしては上出来な『わたし』の言葉だった。
 
それから土日だけという条件でわたしはみっちゃんの家に住んでいる。家からみっちゃんの家までそんなに遠くはないのだが、子供の身体で歩くととても遠く感じる。そのため中間地点の歩道橋を渡ったところが待ち合わせ場所。みっちゃんとあんちゃんのどちらかが迎えに来てくれる。
 
本当は『私』のほうが年上なのだからごはんを作ったりお掃除や洗濯をするつもりで立候補したのだが。いかんせん『私』は料理の経験も家事の経験もまったくなかった。『私』の両親がそれらを『私』にやらせ勉強の時間が減るのを嫌ったため、家で包丁も洗濯機も掃除機も使ったことがなかったのだ。それに加えて今の身体は小さく動きにくい。その事実を改めて指摘され実感したとき『私』は顔から火が出るかと思った。
なぜなら、みっちゃんは普通に料理も洗濯もできて。『私』の助けなど何一つ必要なかったのだから。
むしろ『わたし』がみっちゃんの家に行くことによりみっちゃんの負担が増え、逆に疲れさせてしまっていた。1日目にして早くも後悔した『わたし』は、その日、あんちゃんに出会った。
 
あんちゃんはみっちゃんにそっくりな女の子。
落ち込んでいたわたしにあたたかいココアを入れて「これから覚えていけば大丈夫だよ」と頭を撫でてくれた。
いつもみっちゃんの家に泊まるとひょっこり顔を出していつの間にかどこかに行ってしまう。
「あたしがここにいることは、誰にも言わないでね」というのが口癖で、あんちゃんのことをみっちゃんに話したら「俺以外の人にそのこと話すなよ」と釘を刺されてしまった。
 
+++
 
「やっほー。チビちゃん。いらっしゃい」
お風呂から上がると、ジャージを来たあんちゃんらしき人がリビングで寛いでいた。
「…あんちゃん?あれ?みっちゃんは?」
「さっき先に寝るってどっか行っちゃったから代わりにあたしが」
ブイッとピースをするあんちゃん。その姿は相変わらずみっちゃんと区別がつかない。
「みっちゃん…でかけたの?そと、こんなにくらいのに…?」
「ううん。ちゃんとここにいるよ」
あんちゃんが自分の頭を指す。
「へ?……どういうこと?」
意味が解らずに首を傾げるとあんちゃんはちょいちょいっとわたしを手招きし、わたしをソファに座らせた。
「チビちゃんには色々お世話になってるから言っといた方がいいと思ってね」
「うん?」
「そろそろ疑問に思う頃だろうし…」
ふぅっと一息吐いて、あんちゃんは口を開く。
「なぜあたしのことを秘密にしなくちゃいけないのか…あたしの独断で話させて貰う。チビちゃんにはちょっと重いかもしれないけど…『あなた』なら」
前髪を掻き揚げるようにわたしを撫でて。真剣な眼差しが『わたし』の中の『私』に語りかける。
「…っ!」
思わず振り払った手のひら。凝視する私にあんちゃんは微笑んで。
「『あなた』がもう1人のチビちゃんね?」
「ちがっ!」
咄嗟に口から出た否定の言葉を否定するかのようにあんちゃんはわたしの腕を掴む。
「違くないよ…解るもの」
「わ、わたしは」
「うん」
「わたしはっ!」
「うん」
「…私、は………っ」
ノドの奥が苦しくなって、目尻が熱くなる。
溢れそうになった雫を堪えるためにぐっと口を噤んで。ノドの奥で言葉が渦巻く。
どうしてばれたの。なんで解ったの。
私が『わたし』じゃないこと。子供の成長は早いからちょっとくらい中身が変わったとしても不思議になんて思わないはずなのに。気がつくなら両親が気がつくと思っていた。あまりに違いすぎる『わたし』と『私』に。それなのに、それほど頻繁に会うこともなかった『わたし』の変化にどうしてあなたが気がつくの。
見詰め合ったままの私たち。居た堪れなくなって、目を逸らす。
「なんでか…解るんだよね。あたしが『そう』だからかもしれないけど」
咄嗟に顔をあげるとあんちゃんはソファにあったクッションを抱えていた。
「あたし『ミツヤ』の双子の妹なの」
「…知ってる。みっちゃんに教えてもらった」
「うん」と頷いて、あんちゃんは少しだけ目を泳がす。
「でね」
間をおいて、わたしをまっすぐに見つめると。
「産まれてすぐに死んじゃった」
「え…?だってここにいるのに」
「『これ』はミツヤ」
胸に手を当てて『あんちゃん』は言う。
「あたしはただの居候で…身体はもうとっくの昔に無くなっちゃったの…
―――怖い?」
息を呑んだわたしに、あんちゃんは自嘲する。
「ミツヤには本当に悪いことをしてるって思ってる。けど、どうやって入ったのかも…消え方も分からないの」
 
この人は『私』だ。寝て起きたら目が覚めて元の自分に戻っているんじゃないかと毎夜心のどこかに希望を持って。朝起きて、戻らない自分に項垂れながら、それでも『わたし』として皆を騙すことを選んだ『私』。
誰かにばれて精神病院に連れて行かれたらどうしよう。もしそうなって『私』という人格が『わたし』から消えてしまったら…。
そんな身勝手な思いのために『わたし』の人生を奪い続けて。生きるためと自分に言い訳をしながら贖罪を求めている―――『私』。
 
どくん、と心臓が萎縮する。
 
「…いっ」
「え?」
あんちゃんがわたしに耳を近づける。
「怖くないよ…!」
震える声を振り絞って、あんちゃんに抱きついた。
「『私』はあんちゃんもみっちゃんも大好きだよ!きっと、絶対!みっちゃんだって、あんちゃんのこと大好きだよ!」
いったいいつからあんちゃんはみっちゃんの中にいたんだろう。
ずっと誰にもいわずに。誰にも頼らずに。2人は、生きてきたのだろうか。
こんな重く苦しい想いを抱えて。
これからもずっとずっと2人で生きていくつもりだったのかな。
ああ、やばい。泣く。
じわりと湧き出た涙を悟られないように、あんちゃんに顔をこすり付ける。
「あんちゃんも、みっちゃんも…バカだよ。大馬鹿もんだ!子供はね、頼っていいんだよ。大人に。頼るべきなんだよ!守られるべきなんだよ!」
それは『私』の願望。以前からずっとずっと想ってきた『大人』の『子供』への対応。
「言い出せない事だっていっぱいある。苦しくても辛くても。与えられた期待を裏切っちゃいけないって、そうやって頑張ってしまうのもよく解る。けど、甘えたって良いんだよ。ちゃんと解ってくれる人はどこかにいるから。諦めちゃだめなんだよ!」
自分で、自分の道を閉ざしたらそこで終わりなのだと、『こう』なってから初めて気がついた。『私』はもっと足掻けば良かったのだ。こうなりたいと思う自分に向かってもっともっと突き進めばよかったのだ。そうすればこんなに後悔なんてしなかった。『私』が『私』でなくなってから。ずっとずっと今までの『私』を振り返って、後悔ばかりで。
本当は「あなたは勉強だけしていればいいのよ」という言葉に違和感を感じていた。
私がもっと『私』だったら…。
 
―――アンナコトニハ ナラナカッタノニ。
 
「……うん。ありがとう」
あんちゃんの声と頭に置かれた手の温もりでハッと意識が浮上する。
今、何か。思い出した気がしたんだけど…。
眠りにつく前のまどろみのように現実味がない。
「…チビちゃん?…ッミツヤ!待って!ミツ…ッ!「てっめぇ何勝手に話してやがる!」
「みっちゃん…?」
「おーチビ助。あんが変なこと言ったみたいだけど、気にすんなよ。っつーか忘れろ。今すぐ忘れろ!…いいな?」
「嫌です」
「おっまえなぁ!」
みっちゃんがすごい形相でわたしを睨む。
「やっぱりみっちゃんは、あんちゃんと一緒に家に来るべきだよ。一緒に暮らそう」
少しだけわたしを凝視したあと空を仰ぐように天井を見つめて「あー…」と頭を掻く。
「なんでそうゆーこと言うかね。『おまえ』は」
わたしの頭を乱暴に撫でて、みっちゃんが哀愁を漂わせる笑みを浮かべる。
「チビ助はただのガキだったけど。『おまえ』かなりお節介な」
「!、気づいて」
「ったりめぇだろ。バーカ」
「…なんでばらさなかったの」
「俺が言っても説得力ねぇし。そんな非現実的なこと誰が信じるよ?『チビ助の中に他の誰かがいる』『前のチビ助と今のチビ助は別人だ』…どれもこれも信憑性にかけるし、最悪俺が精神異常者だ」
肩を竦めておどける。それにな、と彼は続けた。
「俺は『おまえ』が誰だろうと何だろうと、特に気にしねぇ。関係ねぇし。興味ねぇ。けど、一応チビ助は俺の従兄妹だ。なんだかんだ言ってちょこまか引っ付いてくるやつだったし。チビ助に危害加えるっつーなら…まぁ、色々考えたかもしんねぇけど。『おまえ』そんなことしねぇじゃん」
「解んないよ?もしかしたら私は悪霊でそのうちこの子を呪い殺しちゃうかも」
「『おまえ』はそんなことしねぇよ。今までの『おまえ』見てりゃぁ判る…つか、させねぇ」
真剣な眼差しが端麗な顔立ちを更に引き立てて、私はなんでこの人の瞳はこんなにも綺麗なんだろうって場違いなことを考えた。
「一緒に暮らすのは無理だけど、こうやって『おまえ』が来てくれて俺としては色々助かってる。あんも『おまえ』のこと気に入ってるみてぇだし…ありがとな」
ぽんぽんっと頭を叩かれて、私は慌てて首を振る。
「本当はもっと色々手伝いたかったのに、迷惑ばっかりかけて…ごめんなさい。2人より年上なのに…頼ってばかりで…」
「え?年上?!…いくつ?そーいや、おまえ女?男?名前は?」
「高校3年。18歳。女。名前は……。なまえ、は」
あれ。そう言えば『私』の名前って…。
考えて考えて俯いて、血の気が引いた。
「んん?どーした?」
「わ、わかんない。分からない!どどどどうしよう。え。うそ。やだ。嘘!どうして。私、私の名前…え。やだ!やだぁ。う、嘘。なんで」
「チビ助?」
「や、やだ。…みっちゃん、どうしよう。名前、分かんない。私…誰?」
「チビ助、とりあえず落ち着け。大丈夫だ。名前なんか無くてもちゃんと『おまえ』はここにいる」
狼狽するわたしの肩を両手で掴んで、みっちゃんは「大丈夫」と繰り返す。
「私まだ消えたくないよ。死にたくないよ!なんで解らないの?私は誰?今までの私は全部嘘だったの?『私』がおかしいの?」
本当は初めから『私』なんかいなくて『わたし』が作った幻だとしたら…。そう考えると背筋が凍って寒気がした。全身の震えが止まらない。
「ずっとずっと不安で。きっと明日には戻れるって。信じてたのに!なんで?!なんでぇ!?」
「チビ助!」
みっちゃんの大声にビクッと肩が揺れる。
「大丈夫。『おまえ』はちゃんとここにいるから」
ぎゅっとみっちゃんの腕の中に抱きしめられて、わたしはこくこくっと頷く。
みっちゃんの心臓の音がわたしの背中を叩くリズムと重なって少しずつ冷静になる。
「…ごめん。みっちゃん。…ありがとう」
無意識に握り締めていたジャージを離し、笑顔を作る。
うん。大丈夫。私は、『私』だ。
拳を握って心の中で何度も何度もそう呟く。
「悪かったな、変なこと訊いて」
「ううん。大丈夫。…ちょっと、ビックリしただけ。私、本当に誰なんだろうね」
自分でも嘘くさいだろうなと思うような乾いた笑いを浮かべため息をつく。
名前は他人から呼ばれるときくらいしか使わないから、これまでずっと『私』の名前が分からなくても違和感が無かった。それはつまり『私』が『わたし』に馴染んでいたと言うことになるのかな。
…なんだか複雑な気分だ。
 
「決めた。やっぱ俺、チビ助ん家行くことにする」
唐突に放たれた言葉にわたしは「へ?」と変な声を上げる。
「一緒に暮らしたくないんじゃなかったっけ?」
「ああ…そのつもりだったんだけど」
みっちゃんがわたしを一瞥し。
「やっぱ、腹ん中に色々ためておくのは良くねぇよな。いざと言うとき困るし」
それは私のこと…だろうな。と思い苦笑する。
「私なら大丈夫だよ。本当。ちょっと気が動転しちゃっただけだから…」
「自惚れんな。あんのこと言ってんだよ」
「……そうですよね」
バカ。私のバカ。ちょっと優しくしてくれたからってその優しさが全て私に向けられているだなんてなんて思ったの。いや、そこまでは思ってないけど。ああ、もう。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
顔に集まる熱を両手で冷やして項垂れる。
「それに俺、兄貴だからさ。あんのこと守んなきゃとか思ってたけど…妹分は1人じゃないって気づいたし」
「……ずいぶん家族思いなんだね」
「はぁ?兄貴が妹分守んのは当然だろ」
「私、1人っ子だったから」
「ああ、そっか。んじゃ、年上の妹ってことで。チビ助ん中いる間はチビ助も『おまえ』も俺の妹分な」
乱暴に頭をもみくちゃにされて、わたしは照れるより先に「うわ」っとバランスを崩す。
子供ってこういうとき不便だよな。頭が重い。
バランスを整えてみっちゃんを見ると、「…やっべー…」と、自分の頭を掻いていた。
なんで。
「…やっぱ今の無し。今俺ちょっと恥ずかしいこと言った。や、全体的に結構恥ずかしかった。ダメ。俺、イタタマレナイ」
そう言ってほんのりと朱に染まる頬を隠すように両手で顔を覆うみっちゃんは、少しだけ前よりも頼もしく見えた。
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